海の母星〜

第4部・頭上の影

ジァン・梅原

−その 5−


「さあ、召し上がれ」
シュラバが大きなプレートの上で、ジュウジュウと音を立て、山のように肉と野菜が盛り上がった料理を皆の前に出した。
「あれあれ、ずいぶんいっぱいあるんですね、それにそんなに大きなプレートも‥」
ケンハピーが言った。
「そっ、カイトに積んできたの。でも、今日が最後よ。明日からは歩きだから‥。このプレートもここに置いていくわ」

たき火‥‥と言ってもみんなの中心で燃える固形燃料だったが‥‥、を囲むみんなのお腹がくちくなった頃、遠くで雷鳴が聞こえた。
「あれは砂嵐だな。あれがここに来ないことを祈るしかないね」
ゆらゆらゆれるたき火に照らされてなのか、ウイスキーのせいなのかは不明だが、赤い顔をしたタワケモノがポツンと言った。

「ところで、さっきタワケモノさんもボーイスカウトのリーダーをやったことがあるとおっしゃいましたね」
ケンハピーがタワケモノを見た。
「おお、あの時はカブ隊のサブキャプテンをやったが楽しかったな」
タワケモノは昔を思い出すように夜空を見上げた。
空には無数の星々がまたたき、今は細い眉のような緑の月グリーナが東の地平線近くに見えた。
「そうですか、カブですか‥‥、私はボーイ隊でした。 でも、どうしてマリンに古代テラ(地球)のボーイスカウトがあるのでしょうね」
ケンハピーがたずねた。

「ボーイスカウト運動はテラ(地球)暦1907年に、当時テラに存在したイギリスのベーデンパウェルと言う人が始めた‥‥。 そして、この運動は、健全な青少年を育成するために極めて有効だったので、テラ時間でわずか90年の間に6億人の組織になってしまった‥‥」
カノンが歌うように語りはじめた。
「この星の創造主と言われる"トシオ"はテラから来た。そしてトシオはスカウターだったので、をテラからボーイスカウトを持ってきたのだ‥‥」

「私たちも、よきスカウターになることを誓ったのだから永遠のスカウトであるべきですね」
ケンハピーが勢い込んでカノンに言った。
「フフ‥‥」
カノンが薄く笑った。
「なんだか気のない返事ですね」
ケンハピーがカノンに詰め寄った。
「おいおいケンハピーくん、笑わん殿下のカノンにとっては、それが精いっぱいの同意の表現なんだよ」
タワケモノが笑いながらケンハピーに手を振った。

「さあ、明日からは歩きなんだから、私はもうやすみます」
クラニョンがあくびをしながら立ち上がった。
「そうねぇ−、今日のパーティーはおひらきとしますか。みんな、あしたもよろしくねっ」
モモも立ち上がった。
モモとシュラバはカイトを改造したテントに向かった。

「よし、ケンハピーくん、きみが一番若いから、先ずきみから不寝番だ。そして、グリーナ(マリンの月)があの星のところまで行ったらボクを起こしてくれ」
カノンが、夜空の中天にある明るい星を指差して言うと、スタスタとテントに向かった。
「ラジャー」
ケンハピーは手を上げると、たき火のそばに座った。
「悪いな」
タワケモノも立ち上がった。

                                             第4部−その6−に続く

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