SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その24−

「ヒメ、アヤの町でジァン男爵に会った時、マリン科学研究所はこの山脈の向こうにあると言っていましたね。そこに行けばキラータンポポを取り除くことが出来るのでは‥‥‥」
カノンが言った。
「あ、そうです。確かヤマ博士が帝国科学アカデミーで論文を発表していました。あそこの生物化学は最先端を行っていて、これでキラータンポポの犠牲者は出なくなると言うことで大騒ぎでしたよね。ねえ、直ぐに行きましょうよ」
しょんぼりしていたケンハピーが祈るような顔で言った。
ヤマ博士と言うのは、国のワクを越えた偉大な科学者であり、マリン科学研究所の主力部分になっている生物化学部門長を受け持っていた。
もともとこの研究所は、シャア皇帝がスポンサーとなって設立され、創設に奔走したジァン博士が初代所長になったが、今では、常に1万人以上の研究者が科学のあらゆる分野で研究をしている巨大な研究機関になっていた。
その結果、研究所のロピーは世界中から問題をかかえて来る訪問者でいつもいっぱいであり、そこで暮す研究者の家族をカウントすると一大研究国家の様だった。
「カノン、ドーケシがキラータンポポに支配されるまで、どのくらいもつのですか」
モモが聞いた。というのは、いつまでに研究所に着けばいいのかが重要だったからだ。
「タンポポの根で封じられていますが、ドーケシはもともと変身能力を持つ細胞を持っているので成長は早いはずです‥‥‥」
「それで?」
「‥‥‥1ケ月か、長くても1ケ月半‥‥‥」
「えっ、たった1ケ月‥‥‥!」
モモは一瞬絶句したが、直ぐに気を取り直して言った。
「さあ、こうしてはおられません。直ぐに出発しましょう」
皆も一斉に身支度した。
「私は歩きます。ドーケシ、ついておいで」
モモが言った。

「ホエホエ〜、ドーケシ、変身出来ないだけで、アトはヘーキだよ。モモを乗せてもタンポポの成長、関係ないよ」
ドーケシはモモを『ヒメ』と言わなかった。
ずっと一人と二匹の旅を続けて来たので、今さら『ヒメ』とは呼べないのだろう。
‥‥‥そう、ドーケシとルイルイはモモの旅立ちからずっと一緒だった。戦いの時も、苦境に会った時も、ずっと二匹と一人で力を合わせて生き延び、旅を続けてきたのだ。
それが‥‥‥、こんなところで突然終わりになるなんて‥‥‥。
モモはドーケシの首を抱いて、ポンポンと背中をたたいた。

ヤマ博士の論文はまだ発表されたばかりだったので、マリン科学研究所に着いてもドーケシが助かる保証はなかった。
第一、1ケ月やそこらでこの山脈を越え、その向こうに広がる昔は海底だった広大な砂漠を横切り、もと島だった丘に展開する研究国家に到着することは、ほとんどむずかしいと思われた。
要するにキラータンポポに取り付かれたドーケシは、死の宣告を受けたに等しかった。
「ホエホエ〜、モモ、ボクは意識がなくなるまで、モモと一緒にいてもいいでしょ」
ドーケシが言った。
「ドーケシ、そんな弱気でどうするんだ。みんなでマリン研究所に行って、キラータンポポを取り除くんだ」
カノンが力強く言った。

第2部−完−


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