海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その12−

通常のヒューマノイドタイプのコンピュータは、人との交流が多いため、豊富な医療技術プログラムを所有していたし、特に長期間文明圏を離れる宇宙船には、十分な医療設備が備えられていた。
とにかく、彼にはコンピュータが持つ適切な医療処置が施され、生命の危機は何とか回避することができた。

トシオは処置が終わると直ぐに立ち上がって医療室を出て行こうとした。
しかし、右胸の傷口から電撃が身体を貫き、手足の力が一度に抜けて彼はへたりこんだ。
『トシオ、無理だよ。何しろ右の胸を矢が突き抜けたんだよ。適当な医療設備があったから生命活動を失わずにすんだんだよ。普通だったらドボンになるところだよ』
ミネアは彼に最低10時間の安静治療を要求した。

「わかった、ミネア、ここに寝ているよ」
彼は治療台に寝っころがると、ミネアに指示した。
治療台の周りに小さな清掃ロボットが数台出てきて、汚れた床をたちまち奇麗にして行く。
「ミネア、ランチャーだ。状況を見せてくれ。彼等が何処から来て、今、何をしているか調べてくれないか」
『ラジャー』
バシューン!
十年振りにランチャーが発射され、中央ディスプレィにはランチャーから送られてくる映像が写し出された。

先ず家を覆っているドーム型の電磁バリヤーが写し出された。
そこでは、ユウの指示で繰り出された工作ロボットが、パラライザー(麻酔銃)で次々と攻撃してきた野蛮人を眠らせている様子が見えた。
最後の攻撃者が槍を投げ出して眠ってしまうと、ランチャーは男たちの侵入経路をたどっていった。
踏み荒された麦畑、草原の踏みつけられた草、砂浜の足跡、そして渚に一艘の帆柱を持つカヌーがあった。

『トシオ、あの野蛮人はあの舟できたようよ・・・何処かに島かなんか出来たんじゃない?、何しろこの惑星は理論的じゃないから、島くらい出来たって別に驚かないわ』
ミネアはどこか諦めたような調子で言った。
ファジイ機能を持つヒューマノイドタイプのコンピュータとして、見事な適応だった。
コンピュータは送られてくるデータを元に、カヌーがついている海岸から風の方向を計算して、ランチャーを西の方向に飛行させた。

100キロほど飛んだところで、長い海岸線があらわれた。
『あった、トシオ、やっぱり陸地があったよ』
ランチャーは真っ直ぐ海岸線を突っ切り、陸地の奥に向かった。
砂浜、まばらな潅木、集落、密林、草原・・・・、かなり大きな大陸だ。

いつのまにか草原は砂漠に変わり、その先に壁のように高い山脈がそびえていた。
ランチャーは急上昇して山々を超える。
送られてきた情報によると、この山脈の峰に雪を抱く山々は、いずれもニ千メートル級の高山であることが判明し、山頂付近はほとんど空気がないことも判った。
したがってこの惑星の空気層は、テラに比較するとかなり薄いと思われた。

山脈の向こうは砂漠だった。
ランチャーの燃料が、戻る分だけになったため、カメラをバンさせて遠くに焦点を合わせたが、地平線の彼方まで砂漠が続いていた。

第1部完

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