海の母星〜
 

第3部・シュラバ

   ジァン・梅原  

−その1−

ビュウビュウと強い風が吹いていた。
そしてその風は、潮の満ち干のように朝夕の風の向きが変わる時以外は永久に続き、止まることがなかった。

そこは、この惑星の世界をまっ二つに分断してそびえている山脈の、割れ目だった。
その山脈は、頭をこの惑星マリンの薄い大気層の上に屏風のように出し、その山脈に出来た唯一の割れ目にできた谷間は、二つの世界を行き来する空気の唯一の通路になっていたからだった。

その深い谷間にそって細々と続く道を、一つの集団が一列になって進んでいた。
先頭は派手な服装をした剣士、続いて強い風にマントをはためかした女性剣士、長い髪とマントをはためかせた精悍な顔つきの剣士、ぼてぼての緑色の動物に乗った白いローブ姿の少女、そして最後は緑色の狩り人姿でななめに大きな弓を担いだ青年が強い風に逆らってもくもくと歩いていた。

彼らの歩いている道は、右手は絶壁の岩盤、左手は深い谷になった急な上り坂だった。
というのも、谷にそってたよりなさそうに続いているその道は、最後には山脈の割れ目の底に相当し、したがって山脈の一番低いところを越えなければならないため、急傾斜の登りになっていた。

道を進んで行くにしたがって谷底はどんどん深くなり、今では谷底を流れる川は数千メートルの絶壁のはるか下になっていて、もはや道からは暗い谷底は見えなかった。
ただ、谷川とは言ってもその谷に、急速に水を失いつつあるこの惑星で、果たして今でも水が流れているかどうかはわからないのだ。

「シュラバ、しっかりと足を大地につけておけよ。吹き飛ばされたらイッカンの終わりだぞ」
先頭を行く、派手な服装のタワケモノ公爵が振り向いて言った。
「わかってるって」
強い風にマントをはためかして、シュラバが息をはずませながら言った。

モモたち一行は、風に逆らいながらもくもくと右手の谷間の壁にへばりついて、うねうねと続く上り坂を進んだ。
道は谷にそって、ますます高くなり、谷はますます深くなった。
「なんだか、風がなくなった‥‥‥みたい」
ふと、シュラバが言った。
「そうだね。日が暮れて来たからね」
タワケモノが答えた。

そう、この山脈は二つの世界の大気をせき止めているため、その隙間を流れる大気は潮の満ち干と同じように一日一回その向きを変えるのだった。
「夜になると後ろから風が来るようになる。暗いところで吹き上げられると危険なので、どこか安全なところでピバークする。それまで、出来るだけ進むんだ」
カノンが言った。
「タワケモノ、あれはなんだろう」
シュラバが前方の暗い谷を指さした。

第3部−その2−に続く

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