海の母星〜
  

第3部・シュラバ

  ジァン・梅原  

−その2−

「タワケモノ、あれはなんだろう」
シュラバが前方の暗い谷間を指差した。
見ると谷底から、ふわふわと丸い透き通った傘のようなものが、いくつも上昇して来ていた。
「あれは "くらげうみうし"だっ。みんな、戦闘準備っ!」
カノンがみんなに呼びかけた。

「"くらげうみうし"だって?」
タワケモノ公爵が聞いた。
「"くらげうみうし"は、比重が空気と同じくらいで、空中を浮遊する危険な生物だ」
カノンが直ぐに答えた。
「よく知ってますね」と、ケンハピー。
「なに、それぐらいの予備知識は帝国図書館にいけばすぐにわかるよ。ジァン男爵じゃないけど、ボーイスカウトの合い言葉は『そなえよつねに』だからね」
カノンはこともなげに続けた。

「あの生物も、伝説の人『トシオ』が名づけたそうだ。なんでも『トシオ』の仲の良い友人に『くらげうみうし』と言うハンドルネームの人がいたそうで、あれがテラ(地球)と言う惑星の水の中に住む『クラゲ』と言う生物に似ているからだそうだ」

「どうしてあれが危険な生物なのですか」
ケンハピーが聞いた。
「あれは普段は、谷底のじめじめしたところに住んでいるのだが、獲物が来ると風に乗って浮かび上がって来て、通りかかった生物を襲って食料にするそうだ」

「ほーぉ、俺たちは食料か」
タワケモノが、横目でふわふわ浮かびあがってくる前方の"くらげうみうし"を見ながら言った。
「そうだ。 油断は禁物だ。 あれは真上から落ちてきて、丈夫な傘で動物を包み込み、窒息させるそうだ。傘の下は全部胃袋で強力な毒のある胃液を出す」
「わかった」

やがて彼らの行く手に立ちふさがるように、白い傘はふわふわといくつも空中に漂い、次第にモモたちに近づいてきた。
「あれを近寄せてはならない。 特に真上に来たのは要注意だ。落ちて来たら剣で切り捨てるのだ。 切り捨てるときは、毒がある胃液を浴びないように」
カノンが言った。 さすがにカノンは戦いの天才だった。

彼の、敵に対する予備知識は徹底していたし、有事の時の彼の指揮ぶりは群をぬいていた。
「ケンハピー君、射程距離になったらあれを打ち落として下さい。 ただし、数が多いので一本で二匹以上を撃つように工夫をして下さい」
「ラジャー」
カノンの注文はなかなか厳しい。

やがてモモたちは、"くらげうみうし" の群れの中に入っていった。
「しゅっ、しゅっ!」ケンハピーの放った矢は正確に"くらげうみうし" に当たり、数が多いので突き抜けた矢は一度に2〜3匹を犠牲にした。
矢が当たった "くらげうみうし"は、矢が突き抜けた後から傘が裂け、毒がある透明な液体を撒き散らしながら空中で急速に縮んで落ちていった。
第3部−その3−に続く

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