海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その3−

"くらげうみうし" は、まさに空中の "くらげ" と呼ぶにふさわしい姿だった。
なぜならそれは、直径1〜2パーセク(1パーセク=約1.2m)もある丸い透き通った傘を、広げたりつぼめたりして空中を移動していたし、傘の縁には脈打って動いているレースで縁取りしているようなビラビラがあった。
ただ、テラ(地球)の "くらげ" と違って、傘の内側には何もなかった。
もしテラン(地球人)がこの様子を見れば、ただ丸く切った透明なビニールの切れ端が、空中をいくつもただよっている、と言うことだろう。

「きたぞっ!」
いくつかの "くらげうみうし" が、傘を大きく広げ、その傘を真上にのばしてたたむと、急降下で落ちてきた。
「バサッ!、バシュッ!」
シュラバ、タワケモノ、カノンが激しく動き回って剣をひらめかせる。

「ホェホエ〜ッ、ホッ!」
いきなりドーケシが絶句した。
「ドーケシっ!」
"くらげうみうし" がドーケシの頭を包んで、ぎりぎりと締め上げるところだった。

モモが左腰に下げている短剣をぬいて、ドーケシにかぶさったビニール袋を切り裂いた。
「ビシッ!」
切れ目から透明な液体が飛び散った。
「あちちっ!」
液体のしぶきが手についたモモは、あわててローブで液体を拭き取った。かなり強い酸だ。

「ホェホェ〜、くるしかったよ〜ん」
ドーケシはブルブルと頭を振って裂けた "くらげうみうし" を振り落とした。

「シュラバっ!」
モモが叫んだ。
シュラバの後ろから来た一匹の大きい "くらげうみうし" が、バサっとシュラバを包み込み、はずみでシュラバは "くらげうみうし" と一緒に地上で転げまわった。

「しュラバっ動くなっ!、このやろうっ!」
タワケモノが駆け寄って左手で腰からナイフを抜くと、シュラバをつつんでいる "くらげうみうし" を切り裂いた。
剣を使うとシュラバを傷つける恐れがあったからだ。

シュラバは、体液を振りまきながら縮んでゆくビニールの切れっぱしを振りほどいて立ち上がった。
「タワケモノっ!、ありがとうっ!」

「あっ、まだ出てくるぞっ」
剣を振り回しているタワケモノが悲鳴を上げた。
タワケモノの視線をたどると、前方の谷底から無数の "くらげうみうし" が群れをなして湧きあがって来るのが見えた。
第3部−その4−に続く
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