海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

-その4−

谷底から更に群れをなして湧き上がってきた"くらげうみうし"は、たちまち散開してモモたちの頭上を覆ってきた。
「数が多すぎる!。もう、矢があまり残っていないっ!」
矢継ぎ早に矢を放っていたケンハピーが、悲痛な声を上げてモモを見上げた。
「そう、仕方ないわね」
ドーケシに乗っていたモモはそう言うと、スラリと長剣を抜き放ち、頭上にかかげた。
長剣の先がパチパチと光り、そこにエネルギーが集中しつつあった。
「ああー!あー!」
モモの雄たけびがひびくと、剣の先から一気にエネルギーが放出された。
剣の先から放射状に拡散された稲妻は、半径20パーセク内にいた無数の "くらげうみうし" を一瞬にして炭化させ、黒い粉末にして飛び散らせた。

「さあっ!あいたところをみんな走るんだよっ」
モモの声に、全員は "くらげうみうし" がなくなつた空間を一気に走り出した。
しかし、モモたちの行く手には一行の生命活動に反応して、次々と "くらげうみうし" の群れが谷底から湧き出してきた。
「くそっ!、こいつらきりがないぞっ」
トップを走りながら、行く手をふさぐ "くらげうみうし" を切り捨てているタワケモノが言った。
しかし、全員は走り続けた。 とにかく、"くらげうみうし" はどんどん湧き上がってきたし、数が増えないうちにその場をモモたちは駆け抜けなければないのだ。
「どこかに避難するところはないかしら」
モモは、ボテボテの体格のままどたどた走り続けるドーケシの背にゆられながら、絶望的なまなざしで前方を見つめた。
「そうだっ!シャッフルだっ!」
モモは、『モモさんが強く望んだときに現れる』と言ったムシドラの言葉を思い出した。(第2部−その15−
モモが叫んだ時、前方の黄昏の中にキラッと灯かりが見えた。
「あったっ!」
全員は、前方にこつぜんとあらわれた赤レンガ作りの建物を目指して走った。

その建物は夕暮れの中で、切り立った崖にそってうねうねと続いている道が少し広くなったところに、岩盤を背にして立っていた。したがって玄関の前の道幅もそんなになく、もし、勢いよくその建物の玄関から飛び出せば、間違いなく深い谷にダイビングすることになっただろう。
「おっ、良き所に宿屋だっ」
タワケモノが息をはずませながら言った。
「シャッフルに似ていますが、違いますね。これは新しいですね」
ケンハピーが言った。

そのとおり、赤レンガで出来た壁には緑のツタはなかったし、入り口にはピカピカに光った真新しい真ちゅうの看板がかかっていた。でも、それにも 「 Rose Inn Shuffle 」 と書かれてあった。
そして、かれらが慌ただしく押した入り口の重い扉も、ガンツリーの森の前にあった"シャッフル"と同じ様に二重になっていた。でもその扉は、黒ずんでいなかったし、内側の扉についている「羽を広げてバラの花をくわえたワシのマーク」がある金色のプレートも、ピカピカに輝いていた。

第3部−その5−に続く


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