海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その5−

モモたちは、二重になった内扉を開けて中に入った。
正面にカウンターと、その前におかれた5、6脚の椅子。左手に大きな暖炉とその前におかれたロビーセット。
暖炉の前で寝ているネコそっくりのきれいな動物。右手には二重の大きなガラス窓と、その前に置かれた3セットのテーブル席。そして、静かにながれる『バッヘルベルのカノン』‥‥‥。
何もかも、ここは喫茶『シャッフル』だった。

ドーケシの頭から離れたルイルイが、バタバタと飛んでロビーセットの長椅子の背にとまって言った。
「キルミー、あんた、キルミーでしょ」
暖炉の前にうずくまっていたネコそっくりさんが顔をあげた。
「そうよ。あんた、だれ」
「あら、忘れたの。 ルイルイよ。 きのう、会ったでしょ」
「知らないわ。 あんた、どこからきたの」
「おかしいなぁ。 確かきのう会ったよ。 ボクをつかまえようとしたでしょ」
いきなりキルミーがジャンプしてルイルイにとびかかった。
「おっとっとっ」
ルイルイは素早くはばたいて舞い上がり、暖炉の上の棚にとまると、羽根の先にある指で目の下を押し下げた。
「べ〜だ」
むなしく空を切って、しなやかに床に着地したキルミーが、くやしそうに暖炉の上を見上げた。

「いらっしゃい。喫茶シャッフルにようこそ」
カウンターを前にして、ダークグリーンのドレスを着た女性がにこやかに声をかけた。
「ここは多くの旅人が、ひとときのやすらぎを求めて来る、次元の狭間に浮かぶ『喫茶シャッフル』です。ゆっくりくつろいでくださいな」
「こんばんはっ、ムシドラさん。 "くらげうみうし" に襲われているいるところ、本当に助かりました。これで助けていただいたのは2度目になります」
モモが言った。

「あらっ!、前にお会いしたかしら。 あたくし、初めてお目にかかるようですけど」
ムシドラがいぶかしげに首をかたむけた。
「ええ、お会いしましたよ。 ボクは不注意でキラータンポポに襲われ、あやうくドボンになるところをここに飛び込んで、助けていただきました。その節はありがとうございました」
ケンハピーが言った。

「あら、それは‥‥‥、あなたがたは多分、ずっと未来のあたくしにお会いになったのですわ‥‥。ここは次元の狭間に浮かんだオアシスですから‥‥。それでは、また、お会いできてうれしくてよ」
ムシドラはうれしそうににこにこしながら、カウンターの前に座ったモモたちを見まわした。

「あら、そちらの剣士の方、顔色がすぐれない様ですね。どうされましたか」
にこやかなムシドラの視線が、シュラバの顔でとまった。
「えっ」
みな、いっせいにシュラバを見た。
「い、いやヘーキだよ」
みんなの視線を浴びて、シュラバは照れたように手を振りながら答えた。

第3部−その6−に続く


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