海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その7−

「そうねえ、これだけ成長してしまうと、身体の奥深く根が入ってしまっているので、『生命の水』の力でも全部とってしまうことは出来ないわ。こまったわねえ」
ムシドラが、ドーケシの尻尾に近い背中に芽を出しているタンポポの芽を、いたいたしそうに触って言った。

「今、マリン科学研究所のヤマ博士に会いに行くところなんです。そこに行くと、このタンポポを除くことが出来ると思って‥‥」
モモが言った。
「そうねぇ、ヤマ博士だったら何とかしてくれるかもしれないね」
ムシドラは救われたようにモモを見た。
「ムシドラさん、とりあえず『生命の水』で、表に出たこの芽だけでも溶解して、タンポポの成長を遅らせることは出来ませんか」
ケンハピーが、ムシドラに訴えるような目で言った。

「それがだめなんです。 もし、この芽を溶解したり切り取ったりすると、タンポポは猛烈な勢いで損傷した部分を元の姿に戻そうとするでしょう。その結果成長を早めてしまいます。 除去するときは一度に全部とってしまわないとだめなんです」
ムシドラが残念そうに言った。
「やはりそうですか‥‥、そうするとマリンまで急いで行くことですね。今日はここで休んで、明日、この山脈を越えて行くことにしましょう」
カノンが言った。
『それしかないか‥‥』
みんなそう考えて、一瞬シーンとなった。

パタ、パタ、‥‥ 静かになった室内に、なにかがシャッフルの建物にぶつかる音が聞こえてきた。
みんなの視線は、自然に二重ガラス窓に向いた。
うす暗がりの中で、シャッフルの窓からもれる灯かりに照らされ、乱舞している "くらげうみうし" が無数に浮かび上がった。そして、それは何度も窓に向かって突進し、ガラスにぶつかっては視界の外に消えていた。
おそらくこの建物は、ここから発する生命反応をキャッチした"くらげうみうし" で、びっしりと取り囲まれていることだろう。そして、このおぞましい生物の乱舞をじっとながめているみんなの思いは、おそらく一緒だった。
『こんなに沢山の "くらげうみうし" に囲まれて、どうやって逃れればいいのだろう‥‥』

急に "くらげうみうし" が一斉に退去しはじめた。風が出てきたのだ。 そして風は次第に強くなった。
「あれは、風の向きが変わる静かな時だけに出てくるようですね」
ケンハピーがポツンと言った。

「シュラバ、遅いね」
タワケモノが心配そうにシュラバが入ったドァーの方を向いた。
「ボク、見てくるよ」
キルミーがしなやかに身体をくねらせてドァーに向かった。
本当にキルミーはきれいなネコそつくりさんだった。
すこしうす青みがかった白い毛におおわれ、全身バネのような身体がしなやかに動くさまは、光線の具合で光りが動いているように見えた。
そして、キラキラ光る金色の瞳でじっと見つめられると、カノンでも思わずドキドキするほど胸が熱くなった。
「あーっ!、だれか来てくれぇーっ!」
器用に頭でドアーを押し開けて入ったキルミーが叫んだ。

第3部−その8−につづく


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