海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その11−
   翌日、モモたちは激しい吹雪の中を、もくもくと歩いていた。
一行は、"くらげうみうし" が飛び交う朝なぎが終わって、風が強くなったところでシャッフルを出たが、崖っぷちの急な坂道を登るにしたがって、空気が薄くなり、気温がぐんぐん下がった。
そして深い谷間がだんだん浅くなり、いよいよ山脈の一番低くなったところを越えなければならない、いわゆる峠にさしかかった頃から雪が現れた。

そこでモモたちはシャッフルから提供された、ふさふさとやわらかな毛皮で出来た防寒着を着込んだ。
しかし、気温は山を登るにしたがって更に下がり、防寒着の隙間から入り込む刺すような冷たい風は、みんなの全身から容赦なくその体温を奪い、体力を激しく消耗させていた。
その上、相変わらず吹いている強い風は、今や地上に降り積もった雪を舞い上げ、一面の地吹雪となって厚く空を覆い、視界を遮っていたのだ。

今やモモたちは、薄い大気と凍える寒さの中を、雪と戦いながら一歩、一歩、雪を踏みしめ、激しい呼吸をしながら、それでいて緩慢な動作で、もくもくと吹雪の中を何時間もすすんでいたのだ。

突然、タワケモノ公爵の後ろを歩いていたシュラバが、厚く積もった雪から後ろ足を抜きかけたまま、バタッと雪の上に顔を突っ込んでたおれた。
「おっ、おっ、どうした」
振り向いたタワケモノ公爵が、直ぐに駆け寄ってシュラバを抱き起こした。

と言うのも彼は、シュラバが今朝、陽気にふるまっていても、それがカラ元気であることを見破っていて、それとなく注意していたからだ。
いくら体力と若さがあっても、命拾いをした後、1日や2日で完全に回復するわけがない、とタワケモノは思っていた。
それを、『もう一日様子を見ては‥‥』と言うカノンを押し切って今日出発、をシュラバは主張したのだ。

タワケモノに抱かれたシュラバの身体は冷たく、顔面は真っ白だった。まだ十分に回復していなかったシュラバは、薄い大気と寒さに体力を使い切ってしまっていたのだ。
「もう‥‥、歩きたく‥‥、ないな」
シュラバは弱々しく笑って、小さな声でタワケモノに言った。

「だめだよ。 きみは望んで一行に加わったんだろ。足手まといにならない約束だったんだろ。 それに‥‥、こんなところでくたばったら、もう、ショーネン食い、出来なくなるよ」
タワケモノがシュラバを元気付けるように言った。
シュラバは、タワケモノの最後の一言に目をパッと開き、「うふふ‥‥」と、楽しそうに笑った。
「さあっ、肩につかまるんだ」
タワケモノ公爵は、シュラバの右手を自分の頭の後ろに回し、抱きかかえるようにしてシュラバを立たせた。

突然、バラバラと吹雪の中から、十数名の白い衣服の兵士の群れが現れ、剣を抜いてモモたちを取り囲んだ。雪の中をやっと歩いていたモモたちはなすすべもなく、兵士たちの誘導する方向に進むしかなかった。

以下第3部−その12−に続く


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