海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原


−その12−
  白い服の兵士たちにかこまれ、誘導されたモモたちがやっとの思いで山を越え、少し下ったところで激しい吹雪がうその様にかき消えた。
「うおっ、これは‥‥」
タワケモノ公爵が歓声を上げた。
一行の行く手の足元から、まわりを山で囲まれた緑豊かな盆地が広がっていたのだ。
盆地の中央には、白い噴煙をあげているコニーデ型の火山がそびえていた。

「シュラバ、オアシスだよ‥‥、目を開けてっ、とりあえず助かったんだよ」
タワケモノはほとんど背負った状態になったシュラバをゆさぶった。
しかし、シュラバの反応はなかった。

タワケモノは立ち止まると、急いでシュラバを抱きかかえた。
「シュラバっ、目を開けるんだよっ」
モモが駆け寄ってシュラバの冷たい頬を両手ではさんでこすった。

「シュラバっ!、シュラバっ!」
みんながシュラバとタワケモノを取り囲んで叫んだ。
しかし、冷たくこごえたシュラバには、もう生命の灯はなくなっていたのだ。
「ここまで来て‥‥、何と言うことだ‥‥」
シュラバの腕をとって脈を調べたカノンが、シュラバの腕を元に戻して痛ましそうに言った。
「シュラバーっ」
タワケモノの悲痛な声があたりに響きわたった。

モモたちを遠巻きに取り囲んでいた兵士たちの中から、みんなとは違った服装をした、兵士の中ではリーダーと思われる男が、無言でタワケモノ公爵に抱かれたシュラバに近づいた。
そして、シュラバの様子を見ると、自分のウェストポーチを開けて白い箱を取り出した。

箱の中に、細くて白い透明なペンシルの様なものがきちんと並べられているのが見えた。
そしてそれは、ボーっとオレンジ色に光っているようにも見えた。
男はその一本を取り出して、箱を元に納め、細長いペンシル様なものの先端をパチッと折るとシュラバの腕をとり、あごをしゃくって衣服を上げる様に合図した。
モモはなすすべもなく、シュラバの腕をまくった。

男は、透明な細長い筒の丸くなっている先端を、シュラバの腕に当てた。
「プシュッ」
小さな音がすると、筒のボーッと光っていたオレンジ色の光りが消えた。
みんなは、祈るようなまなざしをして、タワケモノに抱かれたシュラバを見守った。
もはや、モモたちはなすすべもなかったのだ。


第3部−その13−に続く

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