海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その13−

    それは奇跡が起こったようだった。
シュラバの顔にポッと赤味が表れ、見る見るうちに生気を取り戻して行くのがみんなに判った。
やがて、シュラバの目がパッと開いた。
「あら、あたくし、どうしたのかしら‥‥」
「ウォッ‥‥」
みな、いっせいに声にならない声をあげた。

「シュラバ‥‥、よかったわね。わたし‥‥、もう、どうしょうかと思ったのよ」
モモが、ボロボロ涙をこぼしながらシュラバの両手を握って上下に振った。
「よかったねー、またショーネン食いができるんだなー」
タワケモノがわざと快活な声で言った。
でも彼が、込み上げてくる感情と涙を見せまいとしていることは、みんなに判っていた。

一行はダラダラと下っている草原を歩き、次第に平たくなった盆地に降りて行った。
草原はやがて木立に変わり、麦畑に変わり、畑の中をうねうねと続く農道を歩き、行く手の森の上に、塔の先端をのぞかせた城に近づいて行った。

森を抜けると石作りの街並みが表れた。
城の門に続く、石畳で出来た広い大通りに面して、雑貨屋あり、しゃれたレストランあり、食品店あり、花屋あり、ブティックあり、ホテルあり‥‥、商店街だった。
そこをのんびりと素朴な服装の人々が行き交い、ガラガラと馬車が走っていた。

突然、ワーッと子どもたちが走ってきて、一行を取り囲んだ。
どこの世界でも、子どもたちは好奇心旺盛なのだ。
「ねえ、おじさんたち、どこから来たの」
子どもの一人が、先頭を歩くタワケモノ公爵に平行して歩きながら聞いた。

「ばっ、ばかをいえ、オニーさんたちと言え」
タワケモノ公爵はムッとして、わざとこわい顔をして言った。
子どもたちは屈託がない。
「じゃ、おにいさんたち、どこから来たの」
「いろいろなところからだ。でも、行き先は決まっているぞ」
タワケモノはやさしい顔に戻って言った。
「じゃ、どこに行くの」

「ユウだ」
タワケモノ公爵の言葉に、子どもの間に声にならないざわめきが広がって行った。

第3部−その14−に続く



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