海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その18−

「タワケモノ、さっきレミ女王の前で言ったことは、本気なの」
ふと、シュラバが言った。
「本気だよ。シュラバはここがいやかい」
タワケモノはシュラバを真っ直ぐ見つめた。

「ううん、私はどこでもいいの。 タワケモノが行くとこなら‥‥私はどこでも行くの」
シュラバがタワケモノを見つめて言った。
「よし、きまりだ」
タワケモノはうれしそうに、左の手のひらをこぶしを作った右手でたたいた。

「ウヒョーっ、お二人さん、おめでとーっ」
ケンハピーがそばではやしたてた。
「よかったね」
モモがシュラバに言った。
「うれしいのに‥‥、なぜだか涙が止まらないわ‥‥、変ねえ‥‥」
シュラバは半分笑いながら、キラキラした目でモモを見た。
「しかし、このマリンが滅びたら、キララもオレたちの未来も、みんな無くなってしまうんだ。いよいよがんばらなくっちゃ!」
タワケモノが力をこめ、真剣な表情で言った。

突然、城中の鐘が激しく鳴り始めた。
ニコニコしながらモモたちを見つめていたクラニョンの顔が、キュッと引き締まった。
庭園を囲む渡り廊下の一つから、白いローブを翻して少年が走ってきた。
ただし、この国ではみんな好きな年齢の姿をしているらしいので、本当に少年かどうかは判らない。
その証拠に、その少年はモモたちに軽く会釈するとクラコに命令した。

「クラニョン、王国11時と7時の方向にスローンだ。今度は二方向から来ている。直ぐに第一種警戒体制だ」
「ラジャー、それではお客さんをお願いします」
クラニョンはモモたちに敬礼すると、少年が出てきた渡り廊下に走り去った。
「いったい、何が起こったの」
モモが聞いた。

「失礼しました。 私は参謀将校のアラと申します。北々西と南々西の方向にスローンの大群が表れたので王国は警戒体制に入ったのです」
アラと名乗る少年が答えた。
「スローンと言うのは‥‥」
モモが聞いた。

「スローンと言うのは、山脈の高地を集団で移動している擬似生命体です。彼らは、普段は空気がほとんどない山脈の上にいて、主にベリシゥム鉱石を食べているのです。ところが最近、この惑星の環境が変わってきたので、時々この地方にも降りて来るようになったのです」
アラが説明する。
「それで‥‥」
ケンハピーが聞いた。

「彼らは降りてくると、何でも手当たり次第に食べてしまうのです。動植物はおろか建造物でも何でも食べてしまうのです。彼らが通った後には何にも残らないのです。ですから、私たちはここを、あの集団が来ないように守らなければならないのです」
ギリシャ彫刻の様に端正な顔をした少年が、眉を曇らせて言った。
「それは困ったわね。 ここに来ないようにするには、どうすればいいのでしょう」
モモが尋ねた。
第3部−その19−に続く

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