海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その21−

斜面を登っていく兵士たちの前方に、無数の黒い点々が湧きあがった。
黄色の大きい「シャア帝国親衛隊旗」を持った旗手のそばで、カノンがさっと剣を頭上に振り上げた。
旗手の吹く笛の音が響き渡る。
兵士たちはカノンの合図で、いっせいに電撃剣を抜き、スイッチを入れる。電撃剣はボッと青白く光りながらぐーんと1パーセク(約1.2メートル)の長さに伸びた。
続いて剣を構えた兵士たちは、次の笛でさっと横一列に散開した。
無数の黒い点々は、丘になった地平線にその全貌をあらわすと、群れを作って兵士たちに向って進む。

「あれは、大きなゴキブリ‥‥」
シュラバが言った。
確かにそれは、兵士の背丈の二倍はある「真っ黒なゴキブリ」のような、巨大な昆虫に見えた。
ただし、黒々と光るスローンの背中には、羽根の替わりに甲羅があった。そしてその甲羅には不気味に伸び縮みしながら揺れ動く無数の突起が出ていた。また、振り上げている巨大な鎌になっている前足二本以外は、ざわざわと動いている長い無数の歩行用の足があった。

ついに兵士たちとスローンの群れの先頭が接触した。
兵士たちの電撃剣が、群れから出てきたスローンに当たってパッパッと火花を散らしはじめ、電撃剣にたたかれたスローンは、衝撃で群れの中に弾き飛ばされる。しばらくして「ドーン、ドーン」と派手な音が風に乗って城の中まで聞こえてきた。

群れは、兵士たちの攻撃に一瞬立ち止まったが、直ぐに巨大な鎌になった二本の前足を振り上げて、兵士たちに襲いかかった。
しかもスローンの武器は前足だけではなく、背中の突起や歩行用の長い脚を使って兵士たちを捕らえようとするのだ。捕らえられれば、たちまち兵士はスローンに吸収されてしまう。
しかし、勇敢な兵士たちは決して列をくずすことなく、振り上げた鎌をかいくぐってスローンをたたき始めた。

ただ、群れは兵士たちの数とは比較にならないほど多かった。
とにかく、たたいてもたたいても群れは次々と新手を繰り出し、戦線はこう着状態になった。

青白い電撃剣を振り回して戦っている兵士たちに疲れが見え始めた頃、白いマントをひるがえして指揮をとっていたカノンは白い手袋をした左手を上げてぐるぐる回した。
カノンのそばで、風にはためいている大きな黄色い「シャア帝国親衛隊」の旗を持っていた旗手が、直ぐに合図の笛を吹いた。
兵士たちは、防波堤のように横一列になってせき止めていた左端を引き、3時の方向をあける。
それはたくみなカケヒキだった。

兵士の電撃剣に足止めをくっていた格好のスローンの群れは、それが合図になっていっせいに列の開放部分に向って進み始めた。
王国の直ぐそばまで来ていたスローンの群れは、王国の手前をかすめるようにして、再びいっせいに盆地の斜面を登りはじめたのだ。
「やったー」
モモのそぱにいて、かたずを飲んで戦況を見つめていた少年たちが喚声をあげた。

「もう一手は‥‥」
モモたちは火山の方向に視線を移した。
王国の7時の方向からもスローンの群れが近づいていたのだ。

第3部−その22−に続く


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