海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その22−

そこにも兵士たちが散開してスローンと対峙(たいじ)していた。
コニーデ型火山(きらら山)の横手から現れたスローンの群れは、今や兵士たちの電撃剣に行く手をはばまれていた。勇敢な兵士たちの電撃剣が青白く閃くたびに火花が散って、スローンが吹き飛ばされていた。
ドドォーン、ドーン‥‥、数秒の間を置いて城に音が届く。

「あっ、まずいっ!」
ケンハピーが思わず叫んだ。
スローンの群れは、兵士たちが散開している戦線に衝突すると一旦きらら山に向った。しかし、群れは山にぶつかると大きく迂回して、再度方向をこちらに向けた。そこにはもはや兵士たちはいない。
激しく打ち振られる赤いキララ親衛隊の旗と、鋭い笛の音に、兵士たちがほころびた現場に急行するのが見えたが、巨大なスローンの動きは早く、何の障害物もない麦畑を一直線に城に押し寄せてきた。

ケンハピーは弓に矢をつがえた。
ヒョオーッ、矢は空を切り、先頭を切って走るひときわ大きいスローンをヒットした。
スローンはパッと空中に跳ね上がり、明るく輝いて飛び散った。
ドォーン‥‥、数秒遅れて大きな音が聞こえる。

群れは一瞬進むのをためらったかに見えた。しかしスローンの群れは後から後から続き、先頭はこれに押されるような形で前進し、もはや誰にもこの流れは止めようがないように思われた。
ケンハピーは次々に矢を射始めた。

弓の名手ケンハピーには無駄矢がない。 連射するケンハピーの矢に、先頭を走るスローンたちは確実に、次々と空中に飛び上がり、パッパッと輝やいて飛び散る。
ドォーン、ドォーン‥‥、遅れて届く音もひっきりなしに響きはじめた。

城に向かうスローンたちに動揺が走ったようだった。
とにかく、前方にある美味しそうな大きな構造物に進もうとすると、巨大なエネルギーに打たれて空中で粉砕されてしまうのだ。
しかも、前方には小さなエネルギーを発射する、多数の邪魔な生き物(兵士たち)も何もないのに‥‥だ。

突然スローンの群れはパニックに陥った。
後ろから前進しようとするスローンと、恐怖で引き返そうとするスローンとが衝突して、群れは大混乱になった。
その間もケンハピーの矢は、群れから城の方向に進もうとするスローンを正確に捕らえ、空中で白く輝かせて四散させ続けた。

やがて事態に気付いたカノンの応援を得て、現場に急行した兵士たちの到着を待たずに、真っ黒なスローンの群れは、混乱の中をざわざわと視界から遠ざかっていった。
「勝った!」
少年たちが喚声を上げた。
「ケンハピーさん、これまで私たちはいつもスローンの群れをかわすことに専念してきました。撃退したのは初めてです!」
少年の一人が興奮気味に言った。

夕日の中で、城門から飛び出した群集がワーワーと、戻ってくる兵士たちを熱狂的に迎えている。
「わたしの出番がなかったわ」
モモがケンハピーに言った。
「とんでもない、ヒメはただじっと見ておいていただければいいのです」
ケンハピーが答えた。

第3部−その23−に続く

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