海の母星〜

第3部・シュラバ

ジァン・梅原

−その24−

「あのー、長老とおっしゃいましたね。失礼ですがおいくつでしょうか」
ケンハピーが聴いた。
「あはは、今年で268歳ですよ。若く見えるのはキララのおかげです」
フルハウスが答えた。
「ええーっ、268歳‥‥」
シュラバが思わず叫んであわてて口を押さえた。
テーブルを囲んでいた人々がみな一斉にドッと笑った。

「すると、この惑星マリンの昔の状態をご存じなんですねっ」
モモが言った。
「ええ、この惑星はその名前の通り、マリン(海)の惑星だったんですよ」
フルハウスは遠い目をして言った。
「そのころ、この大陸は海に囲まれていて、気候も今よりずっとおだやかで、恐ろしい生物もいませんでした。それがここ100年くらいで、皆さんもご苦労されていますように、マリンの様相が変わってしまいました」
フルハウスは続けた。
「しかし、キララ王国はずっと、こんこんと湧き出ているキララのおかげで今まで平和を保ってきました。 でも最近、噴水の勢いが弱くなってきました。そして、今日のスローンの襲来のように外の影響が押し寄せて来るようになりました‥‥」

「でも、私たちはどこに行くことも出来ないのです。 それは‥‥、すでにご存知かと思いますが、私たちはキララのおかげで長寿を保つことが出来ているのです。 もしキララがなければ、たとえば私の場合、私の身体は一気に268年の年をとってしまうことになるでしょうね。 それはすなわち死を意味することになります」
「キララの噴水が枯れたとき‥‥、それは、私たちもキララ王国もなくなるときです」
広間はしばらくシーンとなった。
「ですから‥‥、モモさん、どうか『聖地ユウ』に無事到着して、この惑星を守って下さい」
フルハウスは熱っぽいまなざしでモモたちを見つめた。

「それから‥‥」
フルハウスはちょっと間をおいて、思い切ったように言った。
「キララ王国としては大きな損失なんですが‥‥、モモさんの家来としてクラニョンをぜひ連れていって欲しいのです。 これはクラニョンの希望でもあるのですが‥‥。
幸い、クラニョンはまだキララの力を借りていません。 したがってクラニョンはキララ王国を遠く離れても若いそのままの姿ですのでご安心を‥‥」

フルハウスの紹介に広間のみんなに声にならないざわめきが広がった。
「モモさん、ぜひお願いいたします。 私はここでじっと滅びを待つよりは、モモさんの家来になってこの惑星マリンを救う一行に加わりたいのです」
クラニョンは訴えるような目でモモを見つめた。
「そんな‥、家来だなんて‥‥」
モモはそう言いながらクラニョンを見た。
「ヒメ、よろしくお願いいたします」
クラニョンがモモに向かって深くお辞儀をし、顔をあげて瞳は真剣なまま、ニコっと笑った。
「こちらこそよろしく‥‥」
モモはクラニョンのひとなつっこいわらいに引きづられるように答えた。

「良かったですね。でも、命の保証はありませんよ」
カノンが銀のコップを取り上げ、軽く上に差し上げて言った。
「それは、覚悟の上です。 たとえ途中で倒れても後悔はしません」
クラニョンもコップをとって上に差し上げた。

「それでは、新しいメンバーの無事を祈ってカンパイといこうや」
タワケモノが銀のコップを取り上げると、皆いっせいにコップを持ち上げた。
「新しいメンバーのクラニョンが、無事ヒメと一緒に『聖地ユウ』にたどり着き、この惑星マリンを救うことが出来ることを祈念して、カンパーイ」
タワケモノの音頭に皆いっせいに答えた。
「カンパーイっ」

第3部−その25−に続く

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