海の母星〜

第4部・頭上の影


ジァン・梅原

−その 4−

「これは無知な子どもたちが無作法して誠に申しわけありませんでしたー」
大きな鳥は、ようやく安定飛行を取り戻したモモのカイトに平行して滑空しながらていねいにわびた。
「そーよ、そーよ、メイワク、かけたよ」
ルイルイが大きな鳥のまわりを回ってさわいでいる。
どうやら、ルイルイも仲間の中では子どもだったのだ。

「モモさまがキララ王国にお立ち寄りしたと聞きー、カラフルな飛行体が飛んでいたので、もしや、と思っていましたー」
「大事にならなくて幸いでーすっ」
モモは、両手でカイトの操縦ロープを操作しながら平行して飛んでいる鳥に言った。
「私たちはー、今マリンに向かって進んでいるつもりですが、このままでよろしいのですかー」
「うーん、ちょっとちがいますねー」
鳥人はちょっと困惑したように言葉を詰まらせた。

「この方向ですが‥‥」
鳥人が身体で示した方向は、砂の雲がある方だった。
そこは暗黒の中に稲妻と雷鳴が走り、強風の中を地上から巻き上げられた砂を始めとするいろんなものが激しくぶつかり合う嵐の真っ只中だった。

「しょーがないですねー。今、砂あらしを避けてやり過ごしている最中なんですがー」
クラニョンがカイトを近寄せて叫んだ。
「わかりましたー、それで良いとおもいますー。砂あらしは今6時の方向に進んでいますからー、明日には見えなくなってしまうでしょー。でもー、砂あらしの進行方向には気をつけてくださーい。急に向きを変えることがありますからー、その時は素早く逃げてくださーい」
「ありがとー」

鳥人たちの群はしばらくモモたちと平行して飛んでいたが、方向を2時に変え、スピードを早めて飛び去って行った。

そして、ついにモモたちは地上に降り立つ時が来た。
マリンの太陽ピーナスが西にかたむき、砂漠の上昇気流がなくなったからだ。
一番重いモモの真っ赤なカイトが先に着地し、みんなはそのまわりに次々に降り立った。
「今日はここでカイトを使って天幕を張り、ピバークすることにしましょう」
クラニョンが言った。

みんな一日中飛び続けてヘトヘトのすきっ腹だった。
それぞれのカイトを寄せてテント状にし、真ん中にたき火をたいて、全員がそれを囲んで坐った。
キララ王国からはカイトに乗って飛び出しただけなので、みんなザックの中にいろいろなものを持って来ていた。
コーヒーを沸かし、モモとシュラバがみんなから出させた材料をもとに簡単な夕食を作った頃、タワケモノが自分のザックを開け、はしゃぎながらボトルを取り出した。
「さあさあ皆さん、これを飲むと元気が出ますよ」

みんなたき火に照らされ、タワケモノがまわした少しのウイスキーで陽気になっていた。
「ボーイスカウトのキャンプファイヤーを思い出しますね。
ケンハピーが言った。
彼はシャア帝国でボーイスカウトの最高峰「富士スカウト」になり、リーダーを経験したとのことだった。
「ケンハピーさん、ボーイスカウトにはウイスキーがないのでは‥」
カノンがボソッと言った。
「あはは‥、ボクやっていた頃は、スカウトたちが寝た後、リーダー会と言うのがあって、そこで少しのどをうるおしていましたよ」
赤い顔をしたタワケモノが、愉快そうにマグカップを差し上げた。
「なんだ、タワケモノさんもリーダー上がりですか‥‥」
ケンハピーが意外そうに言った。

第4部−その5−に続く

しょーせつのINDEXに続く

TOPにもどる