SFフアンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その3−

乾き切った砂漠の中で、石油の様な血液を持ったサンドコブラが、炎に包まれて燃えていた。
「ホエホエー、砂漠の動物、みんな燃える。モモ、ルイルイ、ドーケシ、燃えない」
緑色のぼてぼての体系に戻ったドーケシがいった。

「モモ、負けたじゃない。サンドコブラ、燃えた」
闘いの間、ぎゃあぎゃあ叫びながら上空をくるくる舞っていたルイルイが、モモの脱ぎ捨てたローブを持って降りてきた。
「ホエホエー、負けたじゃない、ではなくて、勝った、と言うんだよ。ねっ、モモ」
ドーケシがルイルイをたしなめる。
「そう、動詞の過去形に、じゃない、をつけても・・・・・、もういいわっ、ルイルイ、もっとしっかり見張りお願いね。直ぐそばまで来てしまったら避けられないよ。そして無駄な闘いをしてしまうじゃないのっ」

「ホエホエー、ルイルイ自分の役目おこたった。モモ、ドーケシ、危険な目にあった。殺さなくていい生物、一個(一匹)死んだ。みんなルイルイ悪い」
ドーケシがモモのしり馬にのって、ルイルイを避難した。
「ルイルイ、サンドコブラ呼んだじゃないっ、砂の中、わかるじゃないよっ」
それだけ言うとルイルイはバタバタと舞い上がった。
どうもルイルイの言うことはわかりにくい。
「ルイルイ、なんてったの」
モモが聞くと、ドーケシは生真面目に翻訳した。
「ホエホエー、ルイルイはサンドコブラを呼んだわけではないし、砂の中なんて見えないのでわからないよ、と言いたいのでしょ」

あたりは次第に暗くなってきた。
一番大きくて明るい太陽、ヴィーナスが地平線に沈んで行く。
小さな赤い太陽マーズがヴィーナスの後を追いかけているが、まだ日没には間がある。
緑の月グリーナが中空で次第に輝きを増していた。

この惑星マリンの太陽は、互いに相手を追いかけて回っている二重恒星だった。 惑星マリンはいつもそのうちの一つ、ヴィーナスと呼ばれる恒星の近くにいたので、ヴィーナスは明るく大きく見えた。
このことは、惑星マリンの公転速度が二重星の公転速度と同じで、マリンは常にヴィーナス側にいることになる。
したがって、テラ(地球)と同じ方向に自転しているマリンから見ると、明るいヴィーナスがいつも先行し、二重星のもうひとつの恒星の赤いマーズは、その後からおずおずとついている様に見えた。

ところで、モモはこの惑星が砂漠ばかりなのに、なぜ 『マリン(海の)』 と言うのかわからなかった。
なんでもこの惑星およびすべての名は、伝説の人 『トシオ』 によって名づけられたとのことだが、モモにとっては、決して会ったことがない、はるか太古の人だった。

ただ、皇帝シャアによると、ほんの数百年前まではこの惑星のほとんどが海に覆われていて、今、モモたちが歩いている砂漠は、昔の海底とのことだった。
とにかく、この惑星は急速に水を失い、死につつあった。
そして、それを救う方法は、この惑星の始まりの地であり、伝説の人 『トシオ』 が最初にこの惑星に漂着したという聖地 『ユウ』 にあると言われていた。

「モモーっ、行く方向、明るい町、あるよ」
上空でまだ明るい夕日に照らされて舞っていたルイルイが叫んだ。
ヴィーナスはもうすでに地平線に沈んでいたが、上空はまだ豊かな金色の光に満たされているのだ。

以下第2部 −その4−に続く



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