SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その5−

笛の音が高くなれば、チャンチャンツリーの無数の鐘の音も高く和し、笛の音が低くなれば、鐘の音も音程を下げた。
チャンチャンツリーの特性を十分に生かした見事なハーモニーだった。
あるときは、笛が力強くチャンチャンの鐘たちを引き連れ、あるときはものうげにチャンチャンの鐘の群れに沈んだ。

やがて行く手の道の左側に大きな岩が見えた。
岩の上に座っている人影があり、その人影を中心にして光の波紋が広がっていた。

モモたちが近づいていっても、大きな岩に座った人影・・・・オレンジ色に輝くチャンチャンツリーの光の下では、本来の色までははっきりわからなかったが、長い髪と長いマントをまとった若者のようだった・・・・・は、無心に横笛を吹きつづけていた。

その笛のメロディーは、モモにはとてもなつかしく感じられた。
何だか前に聞いたことがあるような・・・・・聴いていると心が暖かくなるようなメロディー・・・・・は高く低く続き、それにあわせてチャンチャンツリーの光と鐘の音が林の中に広がって行く・・・・。

モモたちがその若者が座っている岩のそばを5、6歩通り過ぎた時、ふと、笛の音がとまった。
何かの気配を感じてモモが振り向いた時、目の前に笛が飛んできていた。
反射的にモモは笛をつかんだ。

「笛は吹くもので、投げるものじゃないよっ」
モモはつかんだ笛を若者に力いっぱい投げつけた。
若者はパシッと笛を受け止めると、長い髪とマントを泳がせてヒラリと岩から飛び降りた。
マントの下にはシャア帝国の将校の礼装姿だった。

「失礼、なかなかやりますね。ところであなたはシャア皇帝の第三皇女とお見受けいたしますが・・・・」
若者は歩み寄ると、ドーケシの上に乗っているモモを見上げ、静かな声でいった。
「ホエホエ〜、そうだよ〜ん。プリンセスモモさまだよ〜ん」
ドーケシが立ち止まっていった。
いつのまにか、ドーケシの体系は戦闘体系の金色の身体に変身している。

それにかまわず、若者は続けた。
「お待ちしておりました。私はシャア皇帝から派遣されました親衛隊長のカノンと申します。プリンセスをアヤの町までご案内いたします」
カノンと名乗る青年将校は、左手で胸を押さえ、右手を出して左足を後ろに下げて上体を少し前にかがめる、シャア帝国の正式のナイトの挨拶をした。

「え、なになに・・・・、そうなの、よろしくね」
モモが挨拶をすると、カノンは安心したように微笑み、皆に背を向け先頭をスタスタと歩きはじめた。


以下第2部− その6 −に続く



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