SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その12−

鋲が沢山並んでいる厚い堅そうな木で出来た重い扉を開けると、正面にもう一つ扉があった。
扉は、最初の扉と同じような造りだったが、真ん中に金色のプレートがあった。
プレートにはバラをくわえて羽根を広げたワシの紋章があって、その下に『Welcome to Rose Inn Shuffle』と刻んであった。
扉が二重になっているのは、夕暮れ時のキラータンポポが侵入するのを防止するためらしい。

実際、黄昏時になるとこの地方は、まるで紅い雪が降るようにキラータンポポの種子が空中を浮遊するのだ。
ただ、この種子は親木の潅木を離れて浮遊した後、急降下して動物に着陸出来ないで地面に落ちると、直ぐに死んでしまった。
そして、地上に落ちたキラータンポポの種子は、暖かい日に雪が地面に落ちた様に、たちまち分解して土に戻って行くのだ。

扉を明けて入って行くと、正面にはカウンターがあって、その前には5、6脚の木造の椅子があった。
カウンターの後ろには、カラフルなボトルを沢山並べた二段の棚をバックに、ダークグリーンの衣装を着た女性が立っていた。
彼女はモモたちが入って来るのを認めると、にっこり笑って会釈した。
どうやらこの館の主の様だった。

「ホエホエ〜、ぼくたちが入ってもいいのかな〜ん」
頭の上にルイルイをとまらせたドーケシが言った。
「ええ、かまいませんのよ。外はまもなくキラータンポポが降り始める時間ですからね。左手の暖炉の前でお休みなさいな」
やわらかなアルトの音色で女主人が言った。

左手には大きな暖炉があり、赤々と火が燃えていた。
その前にはロビーセットが置いてある。
右手には4つ程のテーブル席があって、その向こうに二重になっているガラス窓があった。

モモには、彼女の声がすべての人に安堵感を与えるような、まるで子守歌の様な響きがある様に感じられた。
「ホェホェ〜、ありがとう。モモ、ぼくたちはここで休ませてもらうよ」
ドーケシは暖炉の前でゴロリとねそべり、前足の上に顔を乗せると心地よさそうに目をつぶった。

ルイルイはバタバタと羽ばたいてドーケシの頭を離れると、暖炉の前に置いてあった椅子の背にとまって言った。
「ここは、ネコ、いるじゃないね」
「い〜え、キルミーがいますから、暖炉の台の上にどうぞ」
女主人が言った。
「えっ、えっ」
ルイルイは慌ててバタバタと暖炉の上に飛び上った。
「ミャーン」
長椅子の下から、すこし青みがかった白色のつやつやした毛並みのきれいなネコが出てきてパッと椅子の上に飛び上った。
そして、金色の目で残念そうにルイルイを見上げた。
「べーだ」
ルイルイはネコを見下ろし、羽根の先にある手の指で目の下を押し下げた。

以下第2部−その13− に続く


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