SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その15−

母親がさとすように、ムシドラが落ち着いた声でいった。
そして、ふと思いついたように言った。
「そうねえ、いいこと教えてあげましょうか。このシャッフルは、次元の狭間に浮かんでいるオアシスよ。だからモモさんが強く望んだところに現れてよ。ただ、時間の流れがこの世界とは少し違うので、そこにはモモさんをまだ知らないあたくしがいたりするかもよ」
「ありがとう」
モモが答えた。

「うわぁーっ、これはすごいやっ」
視線を二重ガラス窓に向けたタワケモノ公爵が素っ頓狂な声をあげた。
窓の外では、夕暮れ時の残り日を浴びて、無数の紅い雪が舞っていた・・・・・。いや、キラータンポポの種子が、まるで雪が降るように数限りなく降り注いでいた。
そして、次から次へと地上に落ちた種子は、気温が高い時降った雪が溶けるように、どんどん溶けて地面に消えて行く・・・・。

「バタンッ!」
突然、後ろの扉が鳴った。
振り替えると、正面の扉が開いて一人の男がよろよろと入って来た。
「ワッ!」
皆いっせいに立ち上がった。
男の後ろからどっとキラータンポポの種子が舞い込んできたからだ。

「た、たすけてくれ・・・」
キラータンポホの種子をいっぱいつけた男は、入ってくると哀願するように両手を顔の高さまで上げ、そのまま前にたおれた。
キラータンポポの種子は男の顔にも、両手にも容赦なく貼りつき、その数があまりにも多いので、種子が出す痛さを忘れさせるための麻酔剤が、男の意識まで朦朧とさせているようだった。
「あっ!、だめっ!」
ムシドラが駆け寄ろうとするモモたちを制した。

「先ず、舞っている種子が床に落ちて溶けてしまうまで待つのよっ」
ムシドラの声にあわててモモたちは部屋の中を見回した。
舞い込んだ種子たちは、次々と犠牲者を見つけ出すこと無しに床に落ち、溶けて行く・・・。
すべての種子が床に落ちて空中からなくなり、男の体から紅い種子の綿毛が消えてしまったのを見届けるとムシドラが男に言った。
「早く、こちらにいらっしゃいっ。意識が無くなる前にここまで来るのよ」

タワケモノとシュラバが、その男が立ち上がるのを助けようとかけ寄ろうとしたが、ムシドラの鋭い声で凍り付いた。
「だめっ、その人にさわっちゃだめっ」

男はよろよろと起き上がると、這いながらムシドラの指し示す奥のドアーに向った。
「さあ、ここにはいって」
ムシドラがドアーを開けた。

(バックに流れているMIDIは、バツフルベルの『カノン』です。ひまわりさんのHPからいただきました。)

第2部−その16− に続く


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