SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

その16−

奥のドァーを開けると、緑色の何かの液体を満たしたプールがあった。
男は言われるままに、ドブンとそのプールに入った。
たちまちプールの中の液体は、男の身体を中心にして激しく泡立ち、男を包んで行く。
「うわわわ・・・」
泡の中からくぐもった男の声が上がる。

「だいじょうぶかな」
タワケモノ公爵が少し心配そうに言った。
「そうねえ、まだ種子がついたばかりだったから、うまくとれるんじゃない・・・・」
ムシドラが泡を見つめながら言った。

やがてしばらくすると、泡がだんだん消えて、もとの緑色の液体が見え始めた。
そこから素っ裸の青年が立ち上がった。
「きゃーッ」
シュラバが両手で顔をおおった。
でも、彼女は手のひらの指の隙間から、しっかりと青年を見ていた。
「おっと、これは・・・・」
青年はあわてて向こうを向いた。

「これを着なさいな」
ムシドラが大きなタオルを投げてよこした。
青年はそのタオルを受け取ると身体に巻き、プールから上がってきた。
「どうやら助かったようだ。本当にありがとうございました」
彼は本当にホッとした顔で、ていねいにムシドラに礼を言った。

「いーえ、でも、先ずあちらの部屋でシャワーをなさいな。まだ身体に溶解液がついていましてよ。その液体は植物性の物質を全て分解しますのよ」
気が付くと、青年にかけたタオルが、シュウシュウと水蒸気を上げて溶けはじめていた。
「いゃあ、これは・・・」
青年は当惑したように溶けて行くタオルを見ると、急いでシャワールームに飛び込んでいった。
「そこに狩りの衣服がありますので、それを着なさいな」
ムシドラが青年の後ろ姿に言った。

青年がシャワールームから狩人姿で出てくるとムシドラが言った。
「キルミー、調べてちょうだい」
「ミャア」
暖炉の前の椅子の上で、ルイルイを見上げていたさっきのネコそっくりさんが、さっと青年に走り寄ると、ピョンと肩に飛び乗った。

「おっとっとっ・・・」
青年はキルミーの重みで少しよろけたがそれにかまわず、キルミーはフンフンと鼻を鳴らしながら青年の顔や首筋などに顔を近づけて、たんねんに調べた。
「だいじょうぶなようよ。少しタンポポの根が入ったので表皮細胞に穴が出来てるけど、全部溶けてしまったみたい。『ヒトデナシ』をつけておけば、すぐに良くなるんじゃない」
キルミーが、青年の肩に乗ったまま言った。

第2部 −その17− に続く


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