SFファンタジー


海の母星〜

−第2部・モモ−

ジァン・梅原

−その17−

「そう、じゃ、ちょっと待って」
ムシドラがカウンターの下から手のひらの形をした黄色の木の葉を一枚取り出してカウンターの上に置いた。
そして更に小さいすり鉢を取り出し、木の葉をちぎって鉢に入れ、すりこぎでゴリゴリとすりつぶし始めた。
「これは『ヒトデナシ』と言う梨の木の葉っぱで、全ての傷に効きましてよ。この木の実はテラ(地球)と言う星にある『梨』と言う果物に似ているけど、その木の葉が人の手のひらにそっくりと言うことで、伝説の人『トシオ』が『ヒトデナシ』と名づけたそうよ。少し余分に作りますから皆さんもお持ちになって下さいな」

ムシドラは、すりつぶして粉になった木の葉に、更に白い木の実の様な粒をいくつか入れて、根気よくゴリゴリと続けた。
「これはガンツリーの木の実よ。収穫するにはそれこそ命がけになるんでしょうけど、これを専門に扱っている人がいましてよ。時々持ってきて下さるんですけど、たしか『きらら王国』から来た人だって言ってましたよ」
「えっ、『きらら王国』!!、『きらら』はやっぱりあるんですねっ!」
タワケモノ公爵が立ち上がった。
彼は『きらら』を求めて世界中をめぐっているのだった。(* 第2部−その9− )

「そうね。『きらら王国』は、確か聖地『ユウ』の近くにある、と言うことは聞いたことがあるけど、正確な位置は誰も知らないわ。だってこの危険な山脈のはるか向こうにある国と言うことなので、本当のことは誰もわからないのよ」
ムシドラが手を休めないで答えた。

「そうですか。やっぱり『きらら』は存在するんだ」
立ち上がったタワケモノ公爵は、右のこぶしで左の手のひらを強く叩き、椅子にストンと腰を落とした。
「あ、申し遅れました。僕は『ケンハピー』と言います。『ケン』と呼んで下さい」
さっきの青年がみんなにあいさつした。
つい数時間前のあわれな姿とは、うって変わった快活そうな青年がそこにいた。

「アラ、あなた、意外と男前ね」
シュラバが気が付いたようにしげしげとケンハピーを見つめた。
「いゃあ、お恥ずかしい姿をお見せしました」
頭に手をやって赤くなったケンハピーは、よく見ると青年になりかけた少年と言ってもよかった。
「そう、ぜ〜んぶ見ちゃったも〜ん」
シュラバがからかう様にケンハピーに言った。
「全部ですか」
と、ケンハピー。
「そう、ぜ〜んぶ」
シュラバが答えた。
「また、シュラバの悪いビョーキが出てきたな。ケンハピーくん、シュラバはショーネン食いとしてユーメイだから要注意ですよ」
静かな声でカノンがポツンと言った。
「カノン、変な情報をケンハピーに植え付けないで」
シュラバの抗議に、みなどっと笑った。

「どうしてあんな危険なキラータンポポの中にいたのですか」
モモが聞いた。

第2部−その18− に続く


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