海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その10−

「父上、今年はトウサクのようですね」
長男のハヤテがはずんだ声でトシオを振り向いて言った。
「はっはっは・・・それを言うなら豊作だよ」
トシオは生まれて12年目を迎え、最近たくましさが出てきた息子を目をほそめて見ながら言った。
見渡す限り黄色く実った麦畑では、農作業用に改造された沢山の工作ロボットたちが忙しく立ち働き、収穫作業を行っていた。

トシオがこの星に漂着して、テラ(地球)の標準時間で11年、この星の時間で約12年が経っていた。
ここで、彼は一度失った筈の幼なじみ「ユウ」と再びめぐりあい、ヒューマノイドタイプのコンピュータ『ミネア』に助けられて、何とかサバイバル生活に耐えることができた。

ミネアによると、この惑星はまったく『普通じゃない』星で、メモリーにファジィのガードがない普通のコンピュータだったら、とっくに気が狂っているだろう、とのことだった。
トシオは、この惑星自身が意識を持った巨大な生物で、宇宙の彼方から漂着した生物の記憶を読み取って様々な条件を与え、じっと観察しているように思われた。

しかし彼の楽天性は、多少の不合理性をも飲み込んで妥協することができた。
そして、彼の結論は『今おかれた状況を色々詮索してもはじまらない』になり、この惑星が彼に悪意を抱かないように祈ることとした。

さて、先ほどテラとこの星の年間のズレの違いを話したが、実はこの惑星の一日はテラとほぼ同じ24時間だが、1年は320日しかなかった。
そのため、この星の11年はテラの10年に相当した。

年間を通じた季節の移り変わりはあった。しかし、冬季と夏季の気温の違いはそんなに大きくはなかった。
ミネアの軌道計算によると、今頭上に輝いている二つの太陽・・・この惑星の太陽は二重星だった!・・・を回っているこの惑星の軌道は細長い楕円形で、最も遠い中心点からの距離は、最も接近した時のほぼ2倍だった。
それほどの距離差があれば当然、中心点から遠いところでは冬の厳しい寒さがあるはずだったが、二重星のどちらかの太陽が常に惑星に接近しているため、夏冬の気温差はそれほど大きくはならなかった。

もっとも、この二重星は金色と赤色(正確に言うと白色矮星と赤色矮星)の恒星からなっていたので、そのどちらの恒星が今この惑星に近いかで、昼間の光の色が違っていた。

この島は、この惑星の赤道から少し北寄りに位置し、ほぼ温帯地方だったのでミネアが提供した農作物を栽培して十分収穫することができた。

12年の間に、トシオとユウの間には6人の子供がいた。
長男ハヤテ12才、セシル10才、シンシア8才、ユカリ6才、ワタル4才それに赤ん坊のミュウ、男の子3人と女の子3人の子だくさんだった。
この惑星のアダムとイブになった二人は、まだまだ子供をたくさん作るつもりだったし、宇宙船のヒューマノイドタイプ・コンピュータ『ミネア』のお産から子育てプログラムは完璧だった。

以下その11 に続く


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