海の母星〜

第1部
ジァン・梅原

−その2−

コンピュータは巧みに翼を操作し、宇宙船はグライダーとなって徐々に高度を下げて行く。
『トシオ、もうこの星を一周したよ。どこまで行っても水ばかりだよ。こんな星におりても良いことはなにもないと思うね』
「そんなこと言っても、おりるっきゃないんだから・・・どこかに島はないかな」
彼はディスプレィを懸命にスクロールさせる。

「あっ、あれはなんだ!」
コバルトブルーの海の向こうに豆粒のような緑の点・・・・・、みるみる大きくなって、あっという間に後ろに飛び去って行く・・・。
『トシオ、島があったよ。でも、おかしいな。さっきはなかったのにな』
「最初は遠くからだったから見落としたんだよ。ユウ、あの島の近くに降りよう」
船は大きく旋回すると高度を下げた。

ディスプレィいっぱいに水面が迫ってきた。
「ちょっとスピードが早すぎるんじゃないか」
そう、トシオが言いかけた時、いきなりディスプレィに水の中が写った。
船に急ブレーキがかかり、はずみで彼はコントロールパネルにたたきつけられた。

気が付くと彼は天井に横たわり・・・・船はさかさまになっていた・・・・、緊急アラームのけたたましい音が室内いっぱいに響きわたっていた。
彼が頭を振りながら立ち上がると、アラームが止みコンピュータが呼びかける。
『ごめんね、トシオ、着水、失敗しちゃった。まもなくこの船は沈んでしまうよ。早く脱出しないとドザエモンになるよ』
「何だって・・・」

ドアーが開くと水が入ってきた。
彼は一歩外に踏み出しかけて振り返った。
「ユウ、きみは・・・・・、動けないのか!」
ユウと呼ばれたコンピュータは、ヒューマノイドと言っても、この宇宙船の一部なのだ。
『トシオ、お別れね。さようなら』
コンピュータがほんのちょっと別れるようなさよならを言うのが哀しかった。
外に出てみると、船は島のすぐそばで裏返しになって浮かんいた。
しかし、墜落のショックで巨大な貨物船腹のチタン合金の被覆がめくれ、そこから音をたてて水が吸い込まれており、船は徐々に傾きながら水面下にその姿を消しつつあった。

彼は海に飛び込み、島に向かって泳いだ。
TFBI付属カレッジにいた時、何のために泳ぎなんか覚えなくてはならないのか、と思っていたが、役に立った。
でも、慣れない泳ぎは、何度も彼にこの星の塩水を飲むことを強要した。

そして、ついに意識もうろうとなって、もう駄目だと観念しかけた頃、足が砂を蹴った。
彼が砂浜にたどり着いてぐったりと寝そべっている間に、船はいったん鋭い切っ先を空に向けて飛び立つ姿勢を見せた後、そのまま尾部からズブズフと沈み、波間に消えていった。

その3 に続く

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