海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その3−

彼が砂浜で立ち上がって海を見た時、すでに宇宙船の姿はなかった。
彼は困惑したような表情をチラッと浮かべたが、直ぐに陸地の森の方向に歩き出した。
「レイ・ガンぐらい持ち出すべきだったかな」
ちょっと彼の意識下に不安がよぎったが、直ぐに楽天的な性格が頭を出す。
「ま、なんとかなるだろう」
いずれにしてもクヨクヨしたって始まらない。

救助される可能性が全く無い中で、命拾いして運良くどことも知れない惑星だけどテラ(地球)型の星にたどり着いただけで儲けものだ。
これからだって無事に生き延びる確率はそう大きくはないと思われた。
ただ、彼は万に一つの可能性があれば決してあきらめない。

彼は森の中に入っていった。
森の中は何処にでもあるテラの木立と同じだった。
ブナに似た木、クヌギに似た木、マツに似た木などがまばらに立っていて、芝生のような下草を分けてキラキラ水面を光らせた小川が流れていた。
森は直ぐに切れ、小さな池のほとりに出てきた。

ここまで来て、彼はフトあまりに静かなことに気が付いた。
普通、森はさえずる鳥の声、昆虫の羽音、鳴き声など、生きとし生ける者の自然の雑音で満ちているのだが、ここではほとんど生物の声がしないのだ。
「ここでは植物しかないみたいだな・・・・」

島の中央に火山性と思われる小高い丘があった。
彼は池を迂回して丘に登った。
丘の頂上は草があるだけで見晴らしは良かった。
丘の向こうはゆるやかな下り坂で、その先は緑豊かな森、そしてその先は海だった。
「ここは海の中の孤島か・・・」
島はほゞ円形で、360度水平線が見えた。

彼はとぼとぼと元来た道を引き返す・・・・、不思議なことに踏み分け道らしきものがあった。続いて・・・・・、池の端に木造の小屋らしきものがあった。
「テラン(地球人)がいるのか・・・、いや、こんなところにテランがいるはずはない。異星人がいるかもしれないぞ」
彼は再びレイ・ガンを持ち出さなかったことを後悔したが、本来の楽天性は『じっとしていてもしょうがない』との結論を引き出し、警戒しながら小屋に近づいて行った。

小屋は無人だった。
何年も前から使用された形跡はなく、ドアーは朽ち果て、テーブルやベッドなどの家具には埃が厚く積もっていた。
「こんな星にもテランがいたなんて・・・・」
彼はそう思いながら、ここを当面のすみかと決め、小屋の手入れを始めた。

「腹が減ったな、何か食い物はないかな」
彼は物入れとおぼしきロッカーを開いた・・・・、あった!・・・・・、ロッカーの中には保存食と思われる食料が沢山貯蔵されていた。

以下その4 に続く


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