海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その4−

いつの間にか外はうす暗くなってきて、夕焼けの赤い光が窓から差し込んでいた。
彼は暖炉に木切れをほうり込み火を点けた。
暗くなった室内に暖かな光が満ち、その前に座った彼は強烈な寒気に襲われていた。
なぜなら・・・・彼は泳いで島に着いたままだったし、もちろん宇宙服はぬれて肌に付着し、不快な状態にあったことを・・・・たった今気がついていた。
彼は震えながら宇宙服を脱いで暖炉の前に置き、ロッカーからガウンとおぼしきものを取り出して着た。しかし震えは止まらず、身体がゆらゆら揺れているような気分に襲われていた。
「これは・・・風邪をひいてしまったようだ」
彼は、昼間手入れをしたばかりのベッドに、ようやくたどり着くともぐりこんだ。
* * * * * *

「トシオ、こんなとこにいてもつまんない、みんながいるとこにいってあそびましょ」
幼稚園のスモックを着た可愛らしいユウが顔をのぞきこんでいた。
彼も同じ服装で、幼稚園児だった。
「ボク、ここでいい・・・・」
トシオはうつむいたまゝで答えた。
ユウはじっとトシオのそばにしゃがんでいる。
「ユウ、みんなのとこに行けよ」
「やだもん、トシオのそばがいいもん」
「ここにいてもつまんないと言ったばかりじゃないか、行けよ」
「でも、やだもん、トシオが行かなきゃ、やだもん」
トシオはしぶしぶ立ち上がった。
「いっつもそうなんだ。いつもユウがボクに何かさせるんだ」
いやいや歩き出したトシオの手を、いつの間にかユウがとって一緒に歩く。
「わたし、大きくなったらトシオのおよめさんだもん」
* * * * * *

「いけっ!、いけいけっ!」
トシオは紡錘形のボールを持って走っていた。
目の前に、黄色と黒のトラ模様のジャージが二つ現れる。
激突寸前に、彼から遅れて伴走している茶とブルーの縞模様にボールをパスする。
彼はいったん大きく迂回して、再度ゴールに向かって走る。
「しめた!、ノーマークだっ」
茶とブルーの味方が捕まった。モールをつくれっ、モールから再び彼にパスが出る。
「よしっ、いいパスだっ」
トシオはボールをしっかり抱え込むと一目散に走る、走るっ!
ゴールラインが迫る、立ちふさがる黄黒トラ模様の相手ディフェンス、下を潜ってジャンプっ!、激突!。
緑の草面が視野いっぱいに迫る、全身に打撃が走る。笛、トラーイっ!
歓声、ノーサイド、白いテープ、飛び出す応援団、その中から一本の白い矢が飛んできて、彼に抱き着く。
「トシオ、だいじょうぶ?、もう、こんなに傷ついて・・・」
ユウは気遣わしげに彼の身体のあちこちをなでる。
* * * * * * *

「TFBI(地球連邦検察局)の付属カレッジに合格したよ」
彼は前を真っ直ぐ向いたまゝ歌うように言った。
「えーっ、ほんとうっ!、うれしいっ」
一緒に並んで歩いていたユウが立ち止まる。
トシオも立ち止まって振り替える。
ハイスクールの構内、図書館に向かう銀杏並木の緩い下り坂、夕陽に赤く染まって上気したような少女の顔、彼女の瞳の中にも夕日が燃えている・・・・。
「ユウに喜んでもらえるのが、一番うれしいよ・・・」
「だってトシオが一番のぞんでいたことだもの・・・・」

その5 に続く


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