海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その6−

瞬間的にベッドから飛び降りた彼は、手早く宇宙服を着ると腰に手をやった。
「しまった、レイ・ガンはなかった」
声に出ないひとりごとをつぶやいた彼は、部屋の中をすばやく見まわし、暖炉の火かき棒らしきものを握り、そっと隣りの部屋に通じるドアーのノブに手をかけた。

ドアーの隙間からのぞくと、そこはキッチンになっていて、オレンジ色のセーターの上から、白いエプロンを着た少女が食事の支度をしていた・・・。

彼はドアーを開けた。
物音に振り返った少女は・・・彼を見て驚きの表情が顔いつぱいに広がった。
彼の手から火かき棒が滑り落ちる。
「ユウ・・・」
彼は無意識に指を指してニ、三歩前に進む。

「トシオ、トシオなのね」
少女の顔が一瞬、泣き顔になると、はじけるように彼の胸に飛び込んできた。
彼は思わず少女を抱きとめ、抱きしめた。
「ユウ、ユウなのか、信じられない・・・。どうして君がここに・・・」
日向の匂いがする彼女の髪、いつもと同じ・・・・、いや!、これはおかしい!。
「きみは確か・・・」
彼は言いかけた言葉を飲み込んだ。

急いで彼女を引き離し、肩をつかんでそのまま押して歩き、テーブルの─にある椅子に座らせた。
「君は誰だ!、そしてどこからきた」
彼は椅子から離れると、震えながら少女を指差し、感情を押し殺したように静かに言った。
「なにいってるの、わたしよぉー、ユウでしょう!」
少女は涙をポロポロこぼしながら両手を胸の上で合わせた。

「わかった、わかった」
さすがに彼は元TFBI(地球連邦検察局)の職員だった。
彼は少女から目を離さないまま、片手で椅子を引き寄せ、背もたれを前にしてシートにまたがると、静かにきいた。
「君の名前は?」
「モリサワユウでしょ。知ってるでしょう!」
少女は祈るように手を胸の上で組んで答えた。
ユウのいつもやるしぐさだ。
「どうしてここにきた?」

「わからない・・・、気がついたらここにきていたの、・・・・一人ぼっちだったのよ・・・、何故だかはわからないけど、お食事の用意をしなければならないって思って・・・、そこにいきなりトシオが出てくるんだもの・・・、ねえ、もういいでしょ」
かれを見つめる瞳から、また涙があふれ出る。

トシオはゆっくりと立ち上がった。そして彼女に手をさしのべる。
バタンと椅子が音を立てて前に倒れた時、二人はしっかりと抱き合っていた。
「ユウ、ぼくのユウ!、君がなにものでも良い、ぼくはユウを取り戻したのだ」
トシオはユウの熱い体を抱きしめていた。

以下その7 に続く

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