海の母星〜

第1部 トシオ

ジァン・梅原

−その7−

激しい地震だった。
海はゴウゴウと鳴り、部屋の中の全てのものが踊り狂っていた。
トシオはさすがに宇宙船乗りだった。
彼はよろめきながらも、ユウを抱いて揺れる床を歩き、小屋の外に出た。
そして、揺れがおさまった時、彼は津波にそなえるため、ユウの手をひいて島 の最も高い丘に登った。
ここは海に囲まれた孤島だったので、巨大な津波が発生すれば効果はあまり期 待出来ないと思われたが、トシオの良いところは、少しでも可能性があると判断 すれば、それを果敢に実行に移すことだった。

彼は、丘の上から見た風景が最初は信じられなかった。
なぜなら、彼がこの島に上陸した地点の延長上、島の南側に大陸が出現してお り、その中央を大きな川が西に向かってうねっていた。
その川のほとりに、宇宙船がキラキラと朝日を反射して横たわっていた。
「何だぁー、これは・・・」
トシオはすっとんきょうな声を出した。
しかし『津波が来る時は最初に潮がひく』と言うことを知っている彼は、じっ と立ちつくし
、やがて来るであろう巨大な波の到来におびえた。
しかし津波はあらわれなかった。
二人は昼過ぎまで丘の上に座っていた。
「津波はこないようだね・・・。お腹がへったから食事にしょうか」
小屋の中は先ほどの地震で大荒れだった。
修理や後片付けに追われ、実際に彼等が食事が出来たのはもう夕刻だった。

* * * *
翌日、トシオはもっと驚くことになった。
海から隆起した大陸が、たった一日で緑の草原や森に覆われてしまったことだ 。
川のほとりに横たわっていた宇宙船は、今や緑の木立に見え隠れしている状態 だった。
「行こう」
トシオはユウを誘って島だった小高い丘をくだり、宇宙船に向かった。
海岸線の渚の砂浜は残っていたが、そこから先は草原になっていた。
草原を歩いていくと丘の上から見えた大きな川があった。
「これはこまったな」
トシオは川に近づきながらつぶやいた。
川幅は以外と大きく、宇宙船は対岸のさらに向こうにあったからだ。
「だいじょうぶよ。上流を歩いてわたりましょ」
ユウが言った。
上流に行くと川幅はそんなに狭くなっていなかったが、水の深さは一番深いと ころでもヒザまでもないことがわかった。

「ユウ、どうして上流が浅いとわかったんだ」
トシオはたずねた。
「だって、上流は水がキラキラと光っているのが見えたのよ。浅瀬になってい る証拠だわ」
『なるほど、ユウの観察力は鋭い。やはりこの娘はユウだ。そして・・・また 、僕はユウに主導権を取られるのだ。昔から僕はいつもユウの言うとおりになっ ていたっけ・・・』
トシオはふと、自分の幼い頃を思い出していた。

対岸に渡ってしばらく行くと、草原の斜面に宇宙船があった。
トシオが乗っていて着水したときは裏返しだったが、水中を沈んで行く時に向 きを変えたと思われ、草原にその勇姿・・・・と言っても貨物倉庫になっている 部分はかなり痛んでいたが・・・・、を着地させていた。
トシオは宇宙船によじ登った。
脱出した時の入り口が黒い口を開けていた。
室内は当然のことながら水浸しになって・・・・、いなかった!。
トシオが入っていくと、今までシンと死んでいた計器類に灯が入った。
コンピュータが呼びかけた。
『トシオ、またお会いできてうれしいわ。お元気?』

以下、その8 に続く


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