SFファンタジー


海の母星〜

−第2部 モモ−

ジァン・梅原

−その19−

モモたちが旅に必要なものを買い求め、シャッフルを出たのは、日もとっぷり暮れて緑の月グリーナが、行く手に黒々と立ちはだかるガンツリーの森の上を照らし始めてからだった。
もちろん、装備一切を溶解されて丸裸になったケンハピーも、ここで再度弓、矢など一式をモモに買いそろえてもらっていた。

「ホエホエ〜、暗いよぉ〜」
外に出たドーケシが言った。ルイルイはまるっきしトリメだったので、今はおとなしくドーケシの頭にとまってじっとしている。
「こういうものがありますよ」
カノンがマントの下からチャンチャンツリー(*)の枝を取り出した。(* 第2部−その4−
「タワケモノ公爵、これを持って下さい」
カノンはチャンチャンの枝をタワケモノに手渡した。
「オッケー」
これで一行の先頭を行くメンバーがきまった。

チャンチャンツリーの枝には2コの実がついていて、音に合わせて明るく輝き、チャンチャンと鳴った。枝についた実は、大きな実と小さな実だったので、モモたちは鐘の二重奏を聞きながら歩くことになった。
昼間、派手な音をたてて弾(種子)を打ち出していた危険な森も今はひっそりとし、森の小道を黙々と歩く5人と1匹の足音と、チャンチャンツリーの音だけがしていた。
森の奥深く入った頃、不意に行く手の道に、森陰から一人の女性が走り出てきた。
白っぽいオレンジ色のローブをまとっていた長い髪のその女性は、その彫りの深い顔にせっぱ詰まった様なただならぬ雰囲気があった。

「あのー、すみません。どなたかお医者さまはいませんか」
その女性は、思いつめた様な沈うつな顔で、ドーケシに乗ったモモの前を歩くタワケモノ公爵に呼びかけた。
「どうかしましたか」
タワケモノは立ち止まって女性にたずねた。
「子供が高い熱を出しています。お助け下さい」
手を胸の前に合わせ、哀願するその女性の顔は、ぞっとするほど美しかった。
「それはお困りでしょう・・・。子供さんはどちらにおいでですか」
タワケモノが聞いた。
「こちらの方です・・・・」
女性は案内するように道の横手に続いている小道に入った。
小道の先の木々の向こうに明かりが見え、一軒の大きな家の屋根が、森の隙間から差し込む緑の月グリーナの光の中で浮かんでいるように見えた。

フト、モモはドーケシがうっとりとしているのに気が付いた。
「お母さん、どうしてここに・・・・」
ドーケシがポツンとつぶやいた。
この緑色のボテボテした動物のお母さん・・・・。
モモはいきなりローブをはねあげ、スラリと長剣を抜き放ち、その女性に向けた。
「イリュージョンだっ」
剣の先からパチパチと稲妻がほとばしり、稲妻はその女性を打った。

第2部−その20 −に続く



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